世の中にたえて清峰のなかりせば春のこころはのどけからまし。
という、3月から4月にかけての自分だった。 昨年の夏の甲子園で強豪校を続けて破り、鮮烈な印象を残した、清峰高校野球部のことだ。 以前このブログのここやここにも書いたが、自分の出身である長崎県勢が甲子園で勝ち進むことは滅多になく、去年は本当に楽しき夏をありがとうという感じだった。 そしてこの春、清峰は再び甲子園に見参し、一介のおばはんである私に夢とともに新たな悩みを与えている。 …ってもうGWよ?センバツなんかとっくに終わってるじゃん!と思われるであろう。それでも構うものか。 この春の非常事態だった自分の気持ちを書かずして、このブログの更新はありえん。 早くほかの記事も書きたい。 以下、野球の専門知識のない自分が清峰ナインにすっかり魅了され、平常心を失っていた十数日間の出来事を長文で綴らせていただく。 昨年の秋季九州地区高校野球大会で優勝し、この春、順当にセンバツ初出場を果たした。 3年生が抜けてもこの好成績ということで、清峰のいちファンとして心底嬉しく、3月23日の開会が待ち遠しく、組み合わせの載った新聞記事を切り抜き、準備万端である。 高校野球ファンの方なら当たり前の行為なのだろうが。 それなのに、開会式で清峰の行進を見逃してしまった。うっかり教育テレビを見てしまったじゃないか。気を引き締めねば。 大会4日目26日、1回戦・対岡山東商。 待ってましたという感じである。 新エース・有迫投手を初めて見る。 昨年の夏のエース・古川投手はあまり動揺しない人のように思われたが、有迫投手はどうなのか? 見た目は顔もあどけないし、投げると四球が多い。初回にいきなり先制された。 うむ…。 しかしなぜか、危ういところでどうにかなっているのだ。 なんか今年のチームも何かやらかしてくれそうな気がする。 この試合で気になったのは、7番田辺選手。 2打席連続デッドボール。 解説の人が「(岡山東商の投手)秋山くんにしかわからないイヤな感じを田辺くんから受けてるんですかね」と言ったのがなんとも気になる。 イヤな感じって。 私は野球をした経験がないので何とも言えないが、心理的なものが大きく左右することは何となく推測できる。 のだが何だいったい? 田辺選手、素人が見る限りではどこもおかしなところはないぞ。 打席に立つ田辺選手のどこからイヤな感じを受けるのか知りたいものだ。 などとくだらんことを考えているうち、ふわっと打球が上がった。 …スタンドに入ったんですけど。 それほど予測してなかった、4回・8番池野選手のホームラン。 2ランなので逆点だ、と気づいてから勝ち越しの喜びを噛みしめるような、さりげないが大きい一打だった。 その後清峰はつるべ打って11得点、有迫投手から2番手の富尾投手につなぎ、大量リードに支えられてレフトの木原選手が3番手の投手として登板し、11-2で勝利を収めた。 ああ涙が出る。 清峰が勝っても負けても涙が出るのだよこのおばはんは。 と私は悟った。と思った。この試合の時は。 大会8日目30日、2回戦・対東海大相模。 なんとも嫌である。私が。 神奈川県民となって11年、とっくに郷に入れば郷に従うべきなのにやはり清峰を応援してしまう自分が居心地悪い。 アウェイの気分だ。 近所の人、頼むからこれまで通り回覧板回してね。 といっても、強豪校と当たるのは清峰ナインにとって何でもなさそうだ。 愛工大名電・済美を連破した、昨夏のメンバーが残っている。 相変わらず有迫投手はフォアボールが多いが、名門校の打線相手に踏ん張り、2失点どまり。 清峰もこつこつとよく粘り、同じく2得点で延長戦に突入。 延長戦…。 昨夏の記憶が脳裏をかすめる。あの時は清峰がゲームを制した。この春は。 いや見てる側としては、あの時の気持ちと全然違う。 きっとまた得点してくれる。 何の根拠もないけど信頼できる。 そんな不思議な安心感がある、清峰ナイン。 果たして14回。 決勝打は既に13回を投げ続けている、9番の有迫投手! エースによる勝ち越し、まさにデジャヴだ。 その裏を無事に守りきり、3-2でまた強豪を下した。 ダーッとまた涙が。 大会10日目、暦は4月に改まって1日。 朝からテレビをつけていると「みんなのうた」が始まった。 「がんばらんば」 …長崎出身のさだまさしの歌だった。4月からの新曲らしい。 なんだ~この曲…。 タイトル通り長崎弁の歌で「がんばらなければ」という意味なのだが、ラップも交え軽快なメロディライン。 私にはもちろん歌詞の意味がわかるが、こんな夫にはまるで理解不能に違いないな、とその寝顔を見る。 それにしてもこれ、まるで清峰ナインへの応援ソングだ。 準々決勝・対日本文理戦。スコアは4-0で勝利。 有迫投手がフォアボールを出さない。過去2試合とは別人だ。 しかし、日本文理の2番手ピッチャー・横山投手のピッチングは怖かった。 既に4点リードしていたとはいえ、横山投手に代わってからは打てない打てない。 「もし横山投手が先発だったら…」と考えると、背筋が寒くなった。 初出場どうしの対戦は、かえって研究もしづらいだろうな。 さてこれに勝ちベスト4に入ったが、長崎県勢のセンバツ4強入りは47年ぶりだという。 あれ?と思い調べると確かにそのようだ。 個人的には香田勲男投手(巨人→近鉄)がいたころの佐世保工業の快進撃が印象深い(これもかなり昔だな)のだが、ベスト8どまりだったのか。 しかし、次の対戦はあのPL学園! 大会11日目。 4月2日、の予定だったが雨天順延になった。 窓の外を眺める。 ここ川崎は降ってはいないが、選手たちにとっては恵みの雨だろう。 外には無数の人家が見え、ところどころに薄紅色の木が立っているのが見える。 桜がもう満開。 …毎年桜の時期には花を見にぶらぶら出かけるが、今年は見た気がしない。 子供連れて行くのもこの時期は桜の咲いてる公園まで遠征したりするし、この前も同じくらいの子を持つ母親どうしで桜の見えるマクドナルドに行ったりしたので、確かに桜は見ているのだが。 うわの空なのだ。 清峰が勝ち残ってるうちはろくに桜など見られないんじゃないか。 うむ…明日準決勝、うっかり決勝まで行くとあと2日か…。たのむから桜よ持ちこたえてくれ。 その日の深夜にメールが。 「明日遊びにこない?」 同じくらいの子を持つ、いわゆるママ友からだった。 行きたい友達とお茶したい話したい子供も遊ばせたいしかし清峰の試合が。 「明日は甲子園を見たいので出かけられません」 迷った末、こんな返事。 ママ友っちゅうのは子供媒介に繋がっているため、話すのも子供のことがメインで、子供抜きの個人としての話はしづらい。 いっしょに遊ぶとしてもまだ子供から目が離せないので、育児以外の趣味だとかの話題になる前に話が途切れがちだ。 子供がまだ小さいうちの我慢だとは思うが。 彼女とはおととい会ったばかりなのだが、もちろん今清峰の快進撃でエキサイトしまくりなことなど話していない。 甲子園ってなに?なに?と言われやしないだろうか。 「了解です!応援がんばってね!」 爽やかだ~友よありがとう。いやこの状態でお邪魔しても迷惑なだけだと思う。 これでいいのだ。 いよいよほんとに大会11日目の3日、準決勝・対PL学園。 PLというだけでびびる。 私たちの年代にとっては桑田・清原を擁した恐ろしく強い高校である。 上原晃ファンだった私にとっては、同い年の立浪・野村・橋本なども連想される。 とにかく最強な高校、完璧な自由、パーフェクト・リバティー。 こんなとこと、我らが長崎のただの県立校が火花を散らすのである。 今までの年の1回戦でこの組み合わせだったら、たぶん初めから見ないと思う。 しかし今回は清峰、しかも準決勝。 清峰はこれまでも強豪校を破っている。根拠はないんだけどなんかやってくれそうな気がするのだ。 なんかやってくれそうという変な信頼感を受けるチームなど、今までの長崎の高校にはなかった。 そしてその変な信頼を、清峰ナインは裏切らなかった。 清峰 6-0 PL 夢のようだよほんとに。決勝進出! 点差が開いてからPLの先発・前田投手のお母さんがスタンドで声援を送っているところが映ったが、カメラに気づいたのか席を立たれたのを見てはっとしてしまった。 こっちは名門校相手に出来過ぎた試合で大喜びだが、あのお母さんは胸が締めつけられるような気持ちに違いない。 先日、ここで清峰の有迫投手とお母さんの記事を見ていたのだが、大舞台に立つ息子を見つめる母というのは複雑な気持ちだろう。 息子であって、もう息子ではない。 憧れの地に立ち、躍動し歓喜する姿も、不調で苦しむ姿も、全て見守り気持ちだけは寄り添っているつもりだが、絶対に手を貸すことはできないもどかしさ。 こんなこと思うのも自分が彼らの倍くらいの年齢になったからだろうか。 このセンバツに出てる子が生まれたとき、私は高校生だった。ということは、もう平成生まれの高校球児もたくさんいるってことか。 そう言えば試合後に清峰の吉田監督が「桑田・清原がいた頃のPL学園を知らない今の清峰ナインにとっては、愛工大名電や駒大苫小牧のほうが強豪に思えるらしくて落ちついてプレーできたようだ」という意味のことを言っていて、なるほどと思った。 年をとるというのは、余計な先入観に惑わされる機会も多いということみたいだ。 さて準々決勝・準決勝と安心して見ることができ、いちいち勝利に感激して泣きもしなくなった私だが、いよいよ決勝進出!となると、あまりの嬉しさにいても立ってもいられなくなった。 ふと、甲子園に行ってみるのはどうだ?という考えが浮かぶ。 決勝戦に間に合うように出かけるには、新幹線を使うとして家を朝8時には出ないといけない。 新幹線…、息子らは喜ぶだろうが、長距離の移動で幼子ふたりを制御できるのか? 一応2年前、息子②がまだお腹の中にいた時、息子①を連れて春高バレーの決勝戦の母校の応援に行ったことはあったが、あれは代々木で大した距離ではなかった。 「あのさ、新幹線に乗って野球見に行きたい?」 息子①にきいてみる。 「いく。」 そうかー、と考えていると、 「ジョイフルトレイン・おばこにのる。」 …よく分からんが、それは新幹線じゃないのは確かで、秋田あたりを走る別にかっこよくもない列車だったと思うぞ。 その「おばこ」号とやらに乗っていては甲子園には永遠に着かん。 ううしかし行きたい、と迷っていると兵庫の友人が、 「甲子園行くなら会おう!うちに泊まっていいよ」 とメールをくれた。 渡りに舟!行きたさ最高潮! だったがさすがにー、ボワンと夫の疲労した顔が浮かぶ。 年度初めで今非常に忙しい夫、はりつめた空気の中夕食も抜きで深夜まで残業している時に携帯音が鳴り、 明日甲子園に行ってきまーす♪ などというお気楽なメールを読んだらどう思うか? 私と結婚するくらいだから相当忍耐強ーい、温厚な夫だが、時と場合によっては怒り爆発し、「女房子供に手を焼きながら~生きて~い~る~」とかまやつひろしのように嘆き呆れるとも限らん。 というより実際行くとなると費用もかかる、無職で扶養されている身としては母校でもないのにと夫はあまりいい気持ちしないだろうし、決勝戦のその場の雰囲気に立ち会えるのは大きな魅力だが、素人の自分にはテレビで見ているほうが詳しくいろいろ分かることもある。 うあ!どうしよう!と頭を抱えたが、その日も夫は遅く、逡巡しながら息子①②といっしょに寝てしまった。 さすがに当日の朝、今から甲子園行って来るとは言えんかった。 大会12日目の4日、決勝・対横浜。 ついにこの時がやってきた。 現神奈川県民の自分にとっては、またしてもいやな組み合わせが巡ってきた。 しかも昨日の準決勝の第1試合で、横浜はその強打をいかんなく発揮し、「清峰が勝ったらここと決勝なのか…」と十分に私を脅していた。 昨日の勝利後、清峰のある選手が、 「強豪に強い清峰と言われるけれども、明日は横浜に勝って優勝して、自分たちが強豪になりたい」 と言っていたのも気になっていた。 いや当然、ここまで来たら優勝してほしい。 ここまでの実績は、すでに強豪と呼ぶに十分だ。 でも自ら「強豪」とは決して言わないでくれー。 発言してた某選手、ケチをつけるつもりではないのですまぬ。 ただ、日本の西の端のあの静かな街に集った普通の高校生が起こすミラクル、それに心惹かれている自分にとっては、強豪という表現で片付けてしまうのがなんだか寂しいのだ。 遠くに行ってしまうような。 木綿のハンカチーフみたいな気持ちになる。(何のこっちゃ) おばはんのあまりに勝手な願いである。 mixiで連絡を取り合っている関西在住の複数の同郷の友人も、甲子園に馳せ参じたらしい。 いよいよ、いよいよ、運命の第78回選抜高校野球大会決勝戦が始まった。 そして終わった。 悪い夢を見ているようだった。 横浜に先取されたときは「3点くらい取り返すのは屁の河童よ」と思っていたが、なかなか点が返せない。 この大舞台でも横浜の守備は堅く、蟻地獄に落ち込んだような気持ちで見ていた。 そして、昨日に続く横浜の猛打。 有迫投手から富尾投手に代わり、再び有迫投手に代わり、点差はどんどん開く。 セリフを全く覚えてない状態で劇の舞台に立ち、自分のせいで公演がメチャクチャになるという悪夢を私はよく見る。 それが現実になったような。 それでも舞台を降りられない清峰の選手たち、しかし横浜の選手たちは容赦しない。 と書くとまるで非情だと責めているようだが、そうではなく、むしろ感心すら覚えた。 手加減されたほうがよほど、清峰ナインに対して失礼な行為だと。 それでももしかしたら、と最後の最後まで一縷の望みをつないで見ていたが、いつからか清峰の選手たちも監督も、この試合の結末ではなく、数ヶ月先の未来の自分たちを念頭に置いてプレーしているような試合内容になっていた。 長い、長い、試合。完敗。スコアは書くまい。悔しい。ただ悔しい。 昔の職場には不要な段ボールを捨てる部屋があって、私や同僚などは仕事でイヤなことがあると、 「段ボール部屋行ってくる」 と言って、空の段ボールを踏みつける、放る、空手チョップをするなどひとしきり暴れてから笑顔で仕事場に復帰していたが、あの部屋が久し振りに恋しくなるほど悔しかった。 夜になっても悔しく、もうめったに飲酒などせぬ昨今なのだが、安物ワイン(勝利の美酒に酔うため買っておいた)をあけてみた。 全く酔いが回らぬ。悔しい。 涙も出ないのは清峰の選手たちも同じようだった。 この、OGでもない、ただの清峰ファンのおばはんでさえ、これほど悔しいのだから、清峰の選手たちはなおさらだろうが、最後まで爽やかな彼らの姿であった。 相当の実力がなければ準優勝できるはずもなく、その実力は彼らの地道な練習の積み重ねであり、賞賛に値するものであることは全く揺るぎがない。 悔しいのは変わらないが、清峰の皆さんおめでとう。ありがとう。 決勝戦は魔法がとけたような試合になってしまったが、まだまだ何かやらかしてくれそうなチームだと思う。 去年の夏、この春と、数々の驚きと興奮と喜びをくれた清峰ナインにとって、このあまりに悔しい準優勝は通過点、というより、伏線のような気がしてならないのだ。 次の夏の喜びを倍にするための。 窓の外を見る。 今年は桜の開花が早く、清峰の試合観戦を軸に毎日のスケジュールを組んでいたため「もう散ってしまうな」と諦めていたが、どうにか持ちこたえてくれた。 夏も桜こそ咲かないが、彼らが活躍すればするほど生活が制限される。新たに浮上した悩みである。 よかよか。夏もぜひこのおばはんを悩ませてくれー有迫田辺池野広瀧佐々田佐々木伸木原佐々木優山口富尾小佐々大田山辺大津古賀内山池田藤永諸君!吉田監督!清水コーチ!そしてこれから活躍するであろうキミ! とりあえず、おばはんは桜を見に行ってくるばい。 ※漫然とした長文読破に感謝します。 ●長崎新聞 「旋風 清峰!」 清峰の軌跡。地元紙ならではの愛情が感じられる。 ●<徳島早苗の間> 清峰メイト(だと勝手に思ってる)。 このセンバツの選手の似顔絵展は必見!ほか関連記事多数。 有迫投手の調子が心配です。
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| 2006-04-30 08:18
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